税務署で働いてみた

本日は3月15日である。嬉しい、嬉しい、3月15日。待ちに待った3月15日

さて、ここでクイズである。3月15日とは何の日であろうか。

 

 

 

私、1月下旬から平日は毎日税務署にて短期アルバイトに従事していた。確定申告書作成の補佐業務である。毎朝6時半に起床し、満員電車に潰され、源泉徴収票を捲り、キーボードを叩き、喋り、喋り、喋り、たまに怒鳴られ、たまに感謝され、定時ピッタリにジャンパーを脱ぎ捨てる生活がようやく幕を閉じた。

業務内容の詳細についてはお伝え出来ないが、当アルバイト、春期休暇中に暇を持て余した大学生諸君に強くお勧めしておきたい。アルバイトとは自らの時間を犠牲にしてカネを獲得する行為である。時はカネなり。カネは時なり。単なる苦役である。しかしながら、単なる苦役とはいえ、大学生という人生におけるボーナスステージにおいてどうせ苦役を強いられるのであれば、コスパの良い苦役を強いられたいと望むのが人の常ではなかろうか。当アルバイト、得られるものがほんとうに多い。コスパの鬼と称しても過言ではない。機会があれば、大学生の内に是非とも挑戦してみてほしい。

 

そんなこんなで毎日税務署に通い詰め、大量の公的年金源泉徴収表を目にする中で、私の喉元までとある漠然とした不安感の塊がこみ上げてきた。年老いた我々は一体何処に運ばれていくのであろうか、我々はドナドナされるのか、という不安感である。「ドナドナされない為に、我々は如何なる人生設計を行うべきなのか」という事を悶々と考える内に、私の脳裏にとある映画が思い浮かんだ。

 

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画像引用元: https://filmarks.com/movies/56658

 

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プリズナーズ』のあらすじは以下の通り。

家族と過ごす感謝祭の日、平穏な田舎町で幼い少女が失踪(しっそう)する。手掛かりは微々たるもので、警察(ジェイク・ギレンホール)らの捜査は難航。父親(ヒュー・ジャックマン)は、証拠不十分で釈放された容疑者(ポール・ダノ)の証言に犯人であると確信し、自らがわが子を救出するためにある策を考えつくが……。

映画『プリズナーズ』 - シネマトゥデイより引用

 

 ヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホールを始め、錚々たるキャストが勢ぞろいし、数々の映画アワードへのノミネート及び受賞歴を有する本作。本作のメガホンを取ったのは、あのドゥニ・ヴィルヌーヴである。ドゥニ・ヴィルヌーヴといえば、SF映画の金字塔であるブレードランナーの続編であるブレードランナー2049』を手掛けた事で、現在世界中から熱い視線を注がれている映画監督の一人として挙げられよう。

本作にてヒュー・ジャックマン演じる父親ケラー・ドーヴァーは、常に首から十字架を下げる敬虔なクリスチャン修理工である。ちなみに彼のトラックの後ろにはイクトゥス(Jesus Fish, Christian Fish)と呼ばれるキリストのモチーフが貼られていたりもする。ちなみにナザレのヨセフ(イエス・キリストの育ての親)は大工である。家庭内においても、彼は妻及び子供達を守る強い父親というイメージの体現者という役回りを果たしている。

しかしながら、彼は単なる敬虔なクリスチャンではない。

ここで映画中のケラーのセリフを引用してみよう。

"Be ready. Hurricane, flood, whatever ends up being. No more food gets delivered to the grocery store. Gas stations dry up. People just turn on each other. All of a sudden, all that stands between you and being dead … is you."

上述のセリフを口にするケラーの家の地下室には、食料から武器から何やらありとあらゆるものが備蓄されているのである。

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画像引用元:http://montevidayo.com/2014/11/prisoners-a-preppers-nightmare/

そう、彼はプレッパーズ(Preppers)なのである。
はて、プレッパーズとは何ぞや。彼らは何の為に準備(prepare)しているのか。

 

ここで米国ナショナル・ジオグラフィックスのとある人気番組をご紹介しよう。

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 邦題は「プレッパーズ~世界滅亡に備える人々~」である。

お分かり頂けた事であろう。プレッパーズとは、究極の自衛集団である。彼らは自然災害を始めとしたカタストロフの到来に備え、現代版ノアの箱舟こと自宅の地下室ケラー、Keller)に大量の物資を貯蔵したり、自給自足生活を営んだり、サバイバル能力を昼夜問わず磨き続ける。「いざという時に国家なんて頼らねえ、頼れるのはやっぱり俺」というスタンスである。ツインタワーに飛行機が突っ込み、世界各地で自然災害の脅威が叫ばれ、放射能汚染の恐怖に身を縮める世界に放り投げられた我々である。マッド・マックスの世界観を遠巻きに眺めている暇なんて我々には残されていない。プレッパーズと呼ばれる人々が増加傾向にあるのも至極当然である。最近、我が国においても、とあるプレッパーズがネット上を賑わせた。自己防衛おじさんである。

 

 

  • 自己防衛おじさん

www.youtube.com

 

自己防衛おじさんとは、3月8日に放送された日テレWakeupプラスの新橋駅前の街角インタビューに登場した男性の愛称である*1

以下、彼の発言を文字に起こしてみよう。

「お金いっぱい欲しいんだったら年金あてにしたらだめじゃない」 
「自己防衛、投資、海外移住、日本脱出だよね。」 
「国なんかあてにしちゃだめ」 
「あてにするから文句が出るわけでしょ。」 

自己防衛おじさん - YouTubeより

 

現在、「自己責任」―「リスクを受け入れよ」―のスローガンとともに若者に向けられるメッセージは、明らかに矛盾したダブルバインドのメッセージである。それは一方で「自分の将来や老後を自分で備えよ(=「国や企業に頼るな」)である。しかし同時に発せられるのは「あらゆる長期計画(=長期安定性)を放棄せよ」である。長期的な見通しが不可能となるなかで、自分で長期的な見通しを立てよ。労働市場が流動化し、非正規不安定雇用層が増大するなかで、社会保障の自己責任化を貫通せよ(たとえば401K)。ネオリベラル言説がこの不可能なメッセージで若者に期待するのは、不断に自己を励まし、不確実な未来を臨機応変に積極的に切り開く人間であろう*2

 

 「自己防衛、投資、海外移住、日本脱出」を通じ、国家という枠に見切りを付けた形で自らの将来設計を思い描く自己防衛おじさんは、不確実性の時代に投げ込まれた若者達が抱く不透明な将来への漠然とした不安感と呼応するかの如く、インターネット上で大量拡散されていく。自己防衛おじさん領域の拡大である。市場における積極的なリスクテイカーとして行動する事を強いられる我々、見えない何者かによって常に尻を叩かれ続ける我々に自由は存在するのであろうか。前に進むのが怖い。以上。