楽しい就活日記

就活と恋愛

大昔に参加した企業説明会にて、某大企業の人事がこんな事を口に出していた事を思い出す.高身長・イケメン・大企業勤めという世間が羨むスペックをフル装備した彼の口から出た言葉は、やはりチャラかった.さぞかし女を口説くのにも手馴れているのであろう.そこにはチャラさ故の確固たる強さが在った.

 「就活ってね、恋愛みたいなもんだよ.少し付き合ってみてウマが合わなきゃ解散.偶然ウマが合えばトントン拍子でピンと来て運命的に結婚.そんな感じだよ.そんな感じ.」

  小綺麗な嘘を並べ立て、面接官に尻尾をブンブンと振る小芝居を済ませ、颯爽と会社を後にする度にわたしの脳裏に浮かぶのは、決まってこの言葉であった

 

「君のスキルは是非ともウチの部署で存分に活かしてほしいね」「ウチのような所には君のような人材が必要だね」だの云々、面接官はわたしの顔を眺めながら歯の浮く様な台詞を次々と投げかける.勿論わたしもマンザラではない.お世辞であろうが、誰だって他者からチヤホヤされれば悪い心地はしない.ニンゲン、それは「ニンゲン」という抽象概念の皮を被った単なる卑猥な承認欲求の怪物に過ぎないのだから.町中が生殖器だらけである.俺もお前も生殖器

こうした甘いオベッカに乗せられ、次の選考フローへの期待を胸にボンヤリとスマートフォンを眺めている時に限って、届くのは大抵不採用通知である.

まるでヤリ捨てされた気分である.所詮わたしは身体だけだったのね.一晩だけの性欲の捌け口の為の女だったのね.酷いわ.泣いちゃうわよ.女のわたしがわざわざ泣いてやってんのよ.こっち見なさいよ.わたしは貴方の事を愛してたのに.あっ、そう.はい次.

 

「時間とカネの不合理な搾取.徐々に減っていく預金残高.止められるクレジットカード.煮え切らないビミョーなセックス.就活ってそういう感じだ.そんな感じだよ.そんな感じ.」

 

運命という悪夢

はたしてわたしは運命の就職先、運命の恋人、そしてトントン拍子を合間に挟み、運命の結婚相手との邂逅の機会に恵まれる事が可能なのであろうか.

運命.ひとは言う.これは運命であったと.我と汝の出会い、そしてこのナニモノにも代えがたい愛は、必然に他ならないと.嘘つけ.

わたしが思うに、運命とは夢のようなものではないかと思う.渾沌、不確定性、偶然性の集積物としてのこの世界に対して運命の存在を声高に訴える事、それは必然という<意味付け>を経る事で世界という不合理から目を背ける行為なのではなかろうか.

電車に乗ると、ひとはノイズキャンセリングのイヤホンを耳に突っ込み、周囲の雑音を能動的に排除する.イヤホンから”美しく組み立てられた”心地の良い旋律が流れ出し、ひとは思わず目を瞑る.そうこうしている内に睡魔に襲われる.電車の揺れを感じ、ふと重たい瞼を持ち上げると、最寄り駅はすっかり遠ざかってしまっている.また逆方向の電車に乗り直せばよいと、もう一度目を瞑る.

夢を見る事、それは幸せである.現実、そしてこの世界の醜悪さを一時的に忘却の彼方に押しやる事が出来るのだから.しかしながら、夢の中で生き続ける事、暖かな羽毛布団で身を包み続ける事、愛という共同性に個を融解させる事で<わたし>からの逃避を企てる事、それは真の意味で幸せなのだろうか.

わたしは敢えて不幸せであり続けたい.運命という夢の微睡に身を任せず、現実というノイズ、不協和音にズタズタに引き裂かれ、血だらけになって死のうと思う.

 

運命の就職先、運命の恋人、運命の結婚相手.くたばっちまえ.以上.