人間、みんな「死」に内定しているね

内定式に参加した

内定式早々、颯爽と遅刻した。

タイミング悪く人身事故が発生し、完全に足止めを喰らった。長々とバスを乗り継ぎ、職場の最寄り駅にようやく到着したかと思いきや、なぜか駅を間違えていた。

どうやら私には職場の最寄り駅を覚える脳すら無いらしい。酒の飲み過ぎで脳にガタが来始めているのかもしれない。いや、潜在意識が、労働という行為そのものを忌避している証拠なのかもしれない。もうどうにでもなれという心地だったし、既にどうにかしていた。

心、此処にあらず。

そういえば、振り替え輸送で利用した路線バスの車内は、やけに泣き叫ぶ乳幼児が多かった。ひとりの乳幼児が騒ぎ出すと、音叉同士が共鳴するかの如く、それにつられて周囲の乳幼児もぐずり始めた。気付けば、車内は大絶叫スカパラオーケストラ状態だった。

乳幼児たちといっしょに、私も暴れようかと思った。全てを破壊し、虚無に突っ走りたかった。気分は完全にゴキゲン・テロリストだった。公共交通機関の中で、突然全裸になってみたり、大声で意味不明な妄言を叫んでみたりしたら、さぞかし快感なんだろうな、と一人で妄想に妄想を重ねた。

心、此処にあり。

 

職場に到着した頃には、既に二時間近く遅刻していた。そういえば、ロシアのプーチン大統領は遅刻魔らしい。遅刻魔らしく、堂々と行こうと雑に気合いを入れた。気分は完全にゴキゲン・ネチャーエフだった。

内定者が揃う会場のドアを開けると、10人弱の男女がテーブルを囲むような形で着席していた。私が会場に入った瞬間、全員の視線が私の顔に向けられた。

もう帰宅したかった。好みの顔の男は誰もいなかった。一気にモチベーションが下がった。ひとり、内定者の中に、ショーツのラインをスラックスに響かせた女を発見した。お陰様で、少しモチベーションが上がった。束の間の贅沢、パンチラ、ゴディバのチョコレート。

 

 薄っぺらな内定証書と大量の書類を受け取り、同期の人間と雑な世間話を交わした。マッチング・アプリでお馴染みの会話パターンだと直感した。全てが薄く、浅く、平和だった。誰も傷を負わない幸せな世界だった。上っ面だけ整え、見て見ぬふり。パンドラの箱は開けず、こころには永遠にカギを。

続く懇親会では、役員のツッコミを適当にあしらい、営業スマイルを無料で提供し続けた。気分は完全にマクドナルドのクルーだった。いらっしゃいませ、マクドナルドへようこそ。赤べこ人形のように首を振り、それっぽく相槌を打ち、淡々とハイボールを飲み続けた。酒だけが救いだった。煙草が吸いたかった。

 

私はこの会社にいつまで席を置くのであろうか。いや、いつまで社会人らしい社会人という肩書を背負うのだろうか。内定式というタイミングで、早速この問いが頭に浮上してしまっていた。どうやら、既に私のこころは、きわめて明確に別の方向を向いているようだ。

この感覚だけが唯一の救いだ。感覚こそが全てだ。

 神無き世界に一つの真理を。真理、それは私が私であり続けるということ。以上。